目次
養生とは、生命を大切に育み、心とからだを健やかに保つための暮らし方を指す言葉です。東洋医学の考え方を背景に、日本の生活文化の中でも長く受け継がれてきました。単なる健康法ではなく、日々の営みそのものを整える“生き方の知恵”として位置づけられています。
福島県郡山市のアロマセラピー&鍼灸治療院で施術を行う鍼灸師・齋田和美さん(AEAJ認定アロマセラピスト)に養生について寄稿いただきました。
春・夏・秋・冬、それぞれの季節に寄り添うケアのヒントをシリーズでご紹介します。
【読了目安時間:5分】
春になると感じる、あの“なんとなく”

朝、窓を開けたときの空気が、少しだけやわらかく感じる日があります。
頬にふれる風が、冬の冷たさとはどこか違って、光もほんの少し明るい。
道ばたの草木が、気づかないうちに芽吹いていて、季節がちゃんと動いていることを目や肌が先に感じます。
春ですね。
なんだか動き出したくなる。何か始めたくなる。冬のあいだ止まっていたものを、そろそろ前に進めたくなる。春には、そんな力があります。
でもその一方で、
朝からぼんやりする。
やけに眠い。
気持ちが落ち着かない。
いつもなら気にならないことに、少しだけイライラしてしまう。
肩に力が入り、呼吸が浅くなる。
そんなふうに感じる日も、あるのではないでしょうか。
からだは静かにがんばっている

春は、景色が明るくなるぶん、心もからだも軽くなる季節だと思われがち。でも本当は、朝晩の寒暖差や気圧の変化、新しい環境や人との関わりなど、からだにとっては変化の多い季節。
目には見えないけれど、からだはそのつど調整しようと、静かにがんばっています。
東洋医学では、春は「肝(かん)」が関わる季節と考えられています。
ここでいう肝とは、現代医学の肝臓そのものというより、気や血の巡りをのびやかに保ち、感情の動きにも関わるより広いはたらきを含んだもの。
草木が枝を伸ばすように、人のからだも春には「上へ、外へ」と動こうとします。この流れがうまくいくと、気持ちもからだものびのびと過ごせます。
でも、忙しさや緊張でその巡りがとどこおると、頭が重い、目が疲れる、首や肩が張る、ため息が増える、気分が不安定になる…。
春の不調は、そんなふうに現れることがあります。
ここで少し、思わず「へぇ~」と感じるちょっとしたお話を。
春に眠気やだるさを感じやすいのは、気のせいではありません。日照時間が変わると、体内時計も少しずつ調整を始め、さらに春先は、寒暖差の影響で自律神経も忙しくなります。
つまり、春の「なんとなく不調」は、怠けているのでも気持ちが弱いのでもなく、
からだが季節の変化に一生懸命ついていこうとしている反応でもあるのです。
だから、春の養生は、無理して元気になることではありません。
ちゃんとしよう、整えよう、遅れないようにしなくちゃ。
そんなふうに自分を急かさず、まずはからだが気持ちよく動ける余白をつくること。
それが春の養生の土台となります。
春の養生のヒント
「朝の光と、伸びをひとつ」

朝、カーテンを開けて光を入れたら、ひとつ伸びをしてみてください。
手を上に伸ばして、胸をひらいて、脇をゆるめて、息をふうっと吐く。たったそれだけでも、からだは「もう動いていいんだ」と思い出しやすくなります。
春は、気持ちばかりが前に進んで、からだが置いていかれやすい季節。朝の伸びは、そのちょっとしたずれをやさしくつなぎ直してくれます。
「春の香りや苦みを味方にする」
菜の花やせり、三つ葉、ふきのとう。
春の食材には、香りやほろ苦さを感じるものが多くあります。昔からこうした味は、冬のあいだため込みがちだったからだを、すっと目覚めさせる助けになると考えられてきました。
口に入れたときの、少し青い香り。
噛んだときに広がる、春らしい苦み。
そんな味わいは、からだに「季節が変わったよ」とそっと教えてくれます。
春はたくさん食べて元気をつけるというより、食べたあとに重くなりすぎないことを意識すると、気分まで軽くなることがあります。
「ため息も、ゆらぎも、責めない」

なぜか落ち着かない。
周りに少し敏感になる。
理由はわからないけど、胸のあたりがつかえる。
そんな日もあると思います。
でも、それを「だめな自分」と決めつけなくて大丈夫。ため息は、張りつめたからだをゆるませようとしている動きでもあるんです。
春は、心も揺れやすい季節。揺れることやわいてくる感情には、良いも悪いもありません。
ただそこにあるだけ。
そっと観察して、「今日は少し疲れているのかも」と気づいてあげることが、明日の元気につながります。
未来の自分のために、今できること

養生は、今日の不調を何とかするためだけのものではありません。
未来の自分が、もう少し軽やかに春を過ごせるようにするための、小さな準備なのです。
夜更かしを少し減らす。
スマホを見る手を止めて、湯気の立つ飲み物をゆっくり飲む。
少し歩く。
深く息を吐く。
どれも地味ですが、こういうことほど、未来の自分の助けとなります。
そして、未来のあなたのからだは、今こうして優しくされたことをちゃんと覚えています。
まとめ

春は、芽吹きの季節。明るくて、きれいで、希望がある。
その一方、見えないところでたくさんの力を使う季節でもあります。
だから、元気に走りだせる日だけが正解ではありません。
立ち止まる日があってもいいし、深呼吸だけで終わる日があってもいい。
春を心地よく過ごすコツは、自分を奮い立たせることではなく、からだの小さなこわばりに早めに気づいて、やさしくほどいてあげること。
窓の外のやわらかな光や、風の匂いに季節を感じたら、そのときは、自分のからだにも少し目を向けてみてください。
今日のそのひと呼吸が、これからのあなたを、そっと整えてくれる助けになります。
【筆者紹介】

アロマセラピー&鍼灸治療院TenBlue
鍼灸師 AEAJ認定アロマセラピスト
齋田 和美(さいだ かずみ)
自分自身が自律神経系や婦人科系疾患に悩んだ経験から人間の心やからだに興味を持つ。
損害保険会社に勤めながら、アロマセラピスト資格を取得。
2018年、母がすい臓がんで亡くなったのをきっかけに医療分野について深く考える機会を持つ。
25年間勤めた会社を退職し、鍼灸師資格を取得。
2024年7月、女性のためのアロマセラピー&鍼灸治療院を開院。
趣味は梅干し作り。






