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段ボールと聞くと、モノや贈り物など商品を梱包する包装資材をイメージする方が多いかもしれません。
そんな包装の枠を超えて様々な想いに寄り添う取り組みを行っているのが、福島県須賀川市に本社を構える神田産業株式会社(以下、神田産業)です。
今回は横山第三工場を訪れ、新しい取り組みについて取材してきました。
神田産業は明治30年に木材商として創業され、商品を安全に運び、安心を創り出す段ボール箱の生産を通して地域に貢献してきました。
主な事業としては、荷物や商品を運ぶための段ボール箱を製造・販売とのことですが、時代や地域のニーズに合わせ、常に新しい挑戦をして段ボールの可能性を広げてきました。
その背景には、福島が経験した深い痛みと、そこから立ち上がる強い想いがあります。
【読了目安時間:5分】
震災の経験から生まれた「必要な空間を、必要な場所へ」
2011年3月11日。
東日本大震災と原発事故により、福島県では多くの人が長期の避難生活を余儀なくされました。
当時、避難所へ届けた段ボールは断熱材や簡易的なパーテーションとして活用されていました。しかし、避難所で最も求められたのは「プライバシーを守るための空間」と「風邪や感染症を広げないための隔離スペース」でした。当時は3月とはいえ寒い時期でもあり、十分な隔離空間もない環境だったため、体調を崩す人も少なくありませんでした。その経験から、避難生活が長期化するにつれて、求められるニーズが変化をしていくことを実感したそうです。
「必要な空間が、必要なときに、必要な場所へ届く仕組みがあれば…」
その想いが、後のプロジェクトの原点となっていくのでした。

神田産業「DOKODEMOプロジェクト」が生まれた背景
東日本大震災の後、福島県は復興の柱として医療機器産業の育成を掲げ、“災害に強い医療機器”の開発を後押ししてきました。
そこで神田産業が提案したのが、「段ボールでつくる可搬型ER(救急医療室)」でした。
「段ボールで医療空間なんて本当にできるのか…」
イメージがつかず、疑問に思う方もいるかもしれませんが、神田産業の技術はその常識を超えるべく新たな挑戦を続けてきました。
もともと段ボール産業は地場産業と言われ、世界中で生産されているとのこと。
「どこでも作れる」「どこでも使える」———
こうした段ボールの特性がこのプロジェクトの核となり、“DOKODEMOプロジェクト”と名付けられました。
常識を超えた段ボールの新境地

“DOKODEMOプロジェクト”の段ボール製ユニットは段ボールのイメージを覆す強度と機能性を備えています。
〈主な特徴〉
• 1枚5kgの軽量パネル(女性1人でも運べる)
• 耐荷重30t/㎡(象が乗っても潰れない強度)
• 防水フィルムで耐水性を確保
• 工具不要で組み立て可能(釘・ネジなし)
• 高い気密性(医療用テントとは一線を画す)
• 電気配線や照明の設置も可能
• 棚やベッドなども段ボールで製作できる
この機能性を支えているのが六角形のハニカム構造を採用した「ハニリアル素材」です。ハニカム構造は軽さと驚異的な強さを両立しており、輸送、建築、そしてデザインの分野で無限の可能性を秘めているものです。

“DOKODEMOプロジェクト”の段ボール製ユニットの開発は福島県立医大や自治体と連携しながら進み、熊本地震、西日本豪雨、台風19号など、実際の災害現場で試用されてきました。
新型コロナウイルスの流行時には、病院やクリニックの外でのトリアージスペースとして導入されるなど、数々の災害・感染症の現場で磨かれた経験が製品の信頼性をさらに高めていったそうです。
その一方で、日本では段ボールなどの可燃性の製品の場合、建築基準法や消防法が適応されるため平時の普及が進みにくいという課題もありました。
こうした背景から、この製品がより活かされる場所が世界にはあるのではないか———
そう考え、視線を海外へと向け始めます。
ザンビアで見つけた“本当に必要な場所”
「本当に必要としている人たちのもとへ届けたい」と海外調査を進める中で、アフリカのザンビアでは妊産婦や乳幼児の死亡率が高いという深刻な状況が明らかになってきたのです。
ザンビア農村部の現実
• 医療施設がほとんどない
• 道路がなく建築資材が簡単に運べない
• 妊婦が30km歩いて診療所へ向かう
このようなザンビアの現状を知り、段ボールの空間を活用できないだろうかとプロジェクトが始動しました。
前述の段ボール製品の特長もあり、JICAのプロジェクトに採択され8カ月にわたる現地調査を実施することになりました。
現地で目の当たりにしたのは、ザンビアの農村部では十分な施設が整っておらず、医師がやむを得ず屋外で診察を行う場面が少なくないという現実でした。
身重な妊婦の方はその診療場所までたどり着くこと自体が大きな負担になります。さらに出産後は、母子ともに繊細なケアが必要です。
この調査を通じて、ザンビアでの社会課題を解決するためにはまず安心・安全な空間を整備することが重要だと分かりました。
こうして、段ボールでつくる可搬型ERを“マザーシェルター”として活用するための製品化と普及に向けた実証活動が本格的に始まりました。

医療だけではない。教育・ジェンダー支援にも広がる可能性
現地調査では、医療以外の用途も見えてきました。
• 移動教室
• 移動図書館
• ジェンダーバイオレンス被害者のシェルター
「安全な空間がない」という課題は、医療に限らず多くの分野に共通していることが見えてきました。
この経験を通じて“DOKODEMO”プロジェクトの製品は、様々な分野で活用できる可能性を持っていると感じたそうです。
世界を救う段ボールの可能性と、広がる未来

今回の取材を通じて、神田産業の“DOKODEMO”プロジェクトは単なる製品開発にとどまらず、災害を経験した福島から生まれた「誰かの困りごとに寄り添いたい」という想いが形になった取り組みであることが分かりました。
いよいよザンビアでの実証が始まりましたが、
「妊産婦にとって空間はどう感じられるのか」「現場での使い勝手はどうか」
一つひとつ確かめながら、より良い形へと磨いていくことが使命だと語られました。
すでにザンビアをモデルケースとして周辺8カ国への展開を望む声も上がっているそうです。
軽くて、強くて、どこでも作れて、どこでも使える。
段ボールという身近な素材が、世界の医療アクセスを変えるかもしれない―――
その挑戦は、今まさに始まったばかりです。

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